表紙に描かれた可愛らしい少女とロボットの冒険。そんな先入観でこの作品を読み始めた過去の自分を、全力で止めてやりたい。最初は未知の世界へのワクワク感、神秘的な原生生物との遭遇に心躍らせていたはずだった。しかし、物語が進むにつれ、それは「冒険」という名の皮を被った、あまりにも残酷な「人体実験」の記録へと変貌を遂げる。
アビスという巨大な縦穴は、単なる地形ではない。それは登るごとに呪いを撒き散らし、探窟家の肉体と精神を容赦なく作り変えてしまう、狂った神の箱庭だ。上昇負荷という名の絶対的な絶望、人間であることを放棄せざるを得ない極限状態の連続。主人公たちが純粋な好奇心で突き進むたびに、読者の倫理観は根底から音を立てて崩壊していく。
特筆すべきは、その圧倒的な絵の密度だ。美しくも禍々しい異形の生態系、そして徹底して描かれる「痛み」の質感。可愛らしいキャラクターたちが絶望の縁で血を流し、骨を折り、それでもなお「深層」を目指して足掻く姿を見せつけられる。その残酷描写は単なる趣味ではない。極限の苦痛の中にこそ、彼らが探求する「価値」や「愛」が凝縮されているのだ。読み終えた後、ふと日常の景色を見ると、そこにアビスの残滓が見えるような錯覚に陥る。これほどまでに精神を抉り取り、それでいて続きを読まずにはいられない強烈な引力を放つ作品は、今後二度と現れないだろう。心から、底まで、完全に沼に浸からされた傑作だ。