最初は「記憶喪失のダメ刑事として事件を追う、少し風変わりなオープンワールドRPG」だと高を括っていた。酒に溺れ、汚職に手を染め、パンツ一丁で奇行に走る。そんな滑稽な主人公の姿を見て、笑えるブラックジョークゲーだとばかり思っていたんだ。だが、その油断が致命傷だった。

このゲームの狂気は、主人公の脳内にひしめく「24のスキル」という名の人格たちにある。論理、電脳、感受性、果ては古き爬虫類脳までが、絶えず脳内で議論を戦わせ、執拗に耳元で囁きかけてくる。目の前の死体から目を逸らそうとする自分を、過激な正義感が叱責し、冷笑的な虚無感が皮肉を叩き込む。プレイヤーであるはずの自分が、いつの間にか彼らの言いなりになり、自らの信念さえも摩耗していく感覚。これは単なる選択肢を選ばされるゲームじゃない。自分の内側にある最も醜くて愛おしい『自分自身』と対話させられ、その結果として「あるべき姿」を突きつけられる、魂の削り合いだ。

マルティネーズの街に漂う停滞した空気と、歴史の敗北者たちが集う吹き溜まりのような閉塞感。そこに滲むのは、革命の残滓と個人の矮小な葛藤だ。かつての情熱が冷めた後の虚無と、それでもなお明日へ這いずり出そうとする泥臭い生存本能。それらが絡み合い、プレイヤーの倫理観を容赦なく揺さぶり続けてくる。終盤、全ての因果が収束したとき、そこにあるのは事件の解決という爽快感ではない。自分という人間がいかに脆く、そしてどれほど必死に生を紡いでいるかという、残酷なまでの自己理解だ。画面を消した後も、頭の中からスキルたちの声が消えず、現実の自分の思考回路にまで干渉してくる。これほどまでに精神を深く抉り、思考の沼に沈められた経験は初めてだ。もはやゲームではなく、一種の哲学的な暴力装置と言っていい。