多くの人が冒険の終わりの先なんて興味がないと思っていたはずだ。僕もそうだった。勇者一行の華々しい旅路の「その後」を描くなんて、よくある後日談的なおまけ程度の話だろうと高を括っていた。だが、フリーレンという孤独なエルフの視点を通じて描かれる世界は、そんな陳腐な予想を遥か彼方まで置き去りにしていった。

何より衝撃的だったのは「時間」という概念の取り扱いだ。エルフにとっての十年なんて、ほんの瞬きにも満たない刹那に過ぎない。しかし、その刹那が人間の寿命にどれほどの重みを持つのか。かつての仲間たちが白髪になり、皺を刻み、土に還っていく過程を淡々と、しかしこれ以上ないほどの慈しみを持って描写するこの物語に、何度目頭を熱くしたことか。「魔法」とは本来、誰かのために何かを想うことなのだと教えられたとき、僕らの日常すらも魔法に満ちたものに思えてくる。王道ファンタジーの皮を被った、あまりにも残酷で、あまりにも優しい哲学書だ。読み終わった今、僕の心には静かな凪のような感動が広がっていて、これまでの人生で大切にしていなかった小さな時間が、急に宝石のように輝き出している。この感情を「エモい」の一言で済ませてしまうにはあまりに勿体ない、全人類必読の聖典といっても過言ではないはずだ。