最初は金塊を巡るサバイバルアクションかと思っていた。アイヌ料理の描写に舌鼓を打ち、杉元たちの珍道中に笑っていたはずだった。だが、気づけば私は「不死身の杉元」という怪物に魅せられ、同時にアシリパさんの瞳の奥にある冷徹な矜持に魂を撃ち抜かれていた。この作品は、もはや単なる漫画ではない。樺太の雪原から網走監獄まで、網羅されるのは単なる歴史的知識ではなく、狂気とエロスとバイオレンスが混ざり合った「極上の生存戦略」だ。尾形百之助という呪いを宿した男の視線に触れるたび、私の日常は安寧を失った。現代社会の平穏が、いつの間にか「剥製のような作り物」に見えてしまうのだ。登場人物たちが血を流し、肉を喰らい、死線を越えていくそのプロセスは、生きることそのものの「純度」を突きつけてくる。今やスーパーの精肉売り場を見るたびに、彼らがどう獲物を解体し、どの部位を炙ったかという「生存の作法」が脳内で自動再生される。この作品に触れてから、私の野生は確実に覚醒してしまった。文明社会の殻を被っただけの薄っぺらな自分という存在が、あの過酷な北の大地で生き抜く者たちの前ではあまりに脆弱で、だからこそたまらなく愛おしい。この「ヒンナ」という呪文を唱えるたびに、私の味覚と道徳観は根底から書き換えられ、今日もまた、獲物を狙う獣のような眼差しで日常を徘徊している自分がいる。