かつてこれほどまでに「無常」という言葉を視覚と聴覚で表現しきった作品があっただろうか。2022年の放送から数年が経過した今、改めて振り返っても本作『平家物語』の完成度は頭一つ抜けている。歴史の教科書で暗記したはずの、あの血なまぐさい貴族の権力争い。それが、琵琶法師の少女「びわ」の瞳を通して描かれることで、どうしてここまで切なく、そして残酷なまでに優しく響くのか。

まず特筆すべきは、山田尚子監督の演出による「光と色彩の魔術」だ。煌びやかな平安の世を、あえてどこか色褪せたような、あるいは夢の中のような淡いトーンで描き切ることで、この栄華がすぐに崩れ去る砂上の楼閣であることを全編を通して観る者に突きつけてくる。特に、キャラクターたちの何気ない視線の交錯や、風に揺れる袖の動き一つひとつに、言葉以上の感情が宿っているのが凄い。

そして、牛尾憲輔による劇伴が神がかり的だ。静寂を支配するアンビエントなサウンドが、物語が進むにつれて少しずつ不協和音を孕み、最終的には壮大なレクイエムへと昇華していく様は、まさに鳥肌モノ。「驕れる者も久しからず」という教訓を、説教臭くなく、ただただ美しい叙事詩として完結させた功績は、アニメーション史における一つの奇跡と言っても過言ではない。歴史に興味がなくてもいい。ただ「美しいもの」を浴びたいと願う人間なら、今すぐ観てほしい。観終わった後、自分の人生の儚さすら愛おしく思える、そんな凄まじい体験が待っている。